水陸両用の相棒 バギーズショーツと歩いてきた日々

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文・写真 Yuki(Yuki Amphibious Outdoor) 

 海洋学部の貧乏学生だった頃、海水パンツなんて贅沢なものはほとんど持っていなかった。今となっては考えられない行動だが、誰かが捨てたものを拾って穿き、無人島に渡ったり伊豆半島の海に潜ったりしていた。ちゃんとしたアウトドアメーカーのものなんて、当時の自分には手の届かないものだった。

 社会人になり、少し懐に余裕ができて、初めてパタゴニアのバギーズ・ショーツを買えたときのことは今でも覚えている。生地のしっかりした厚みと、穿いた瞬間の「これでいいんだ」という安心感。拾い物の海パンで海に入っていた頃を知っているからこそ、バギーズシリーズは自分にとって単なる道具以上の、思い入れの強いシリーズになった。それに、この一枚さえあれば沢でも山でも海でも、どこへ行くにも一緒に連れて行けたことも大きい。フィールドを選ばずついて来てくれるウエアに、いつの間にか愛着を持つようになっていた。

旅の相棒

 数年前、ネパール地震で打撃を受けた観光業を思い、現地の子どもたちにポーターとしての職業体験をしてもらうチャリティトレッキングでアンナプルナ・サンクチュアリ・トレックを歩いた。カーストの名残がまだわずかに残るこの国で、子どもたちに仕事の選択肢を少しでも広く見せてあげたい、という思いも込めた遠征だった。

 その時、バギーズ・ライトをザックの隅に忍ばせて行った。パッカブルで畳めば手のひらに収まるほど小さくなるので、荷物を切り詰める遠征でも迷わず持って行ける一枚だった。ヒマラヤの山小屋では部屋着として重宝し、洗って干せばすぐに乾くので、長期の遠征にはうってつけだった。丈は6 1/2インチ(股下約17cm)と、ショーツの5インチ(股下約13cm)とロングの7インチ(股下約18cm)のちょうど中間で、部屋の中で過ごすにも寝るにも、ちょうどいい塩梅だったのを覚えてい



 一方でアクティビティ中は、海でも山でも軽さと乾きの早さが頼りになる反面、動いているうちに脱げやすいという面もあった。軽量であることの長所と短所を、同じ一枚で味わってきたように思う。現在は同じモデルをもう一枚所有している。

島を巡る旅では船を降りて集落を歩き、テントを設営し荷物を置いたらそのまま海に入る。山に登ったり、早朝にはカヤックに乗ったり、そんな移動の連続の中で、バギーズはずっと同じ役割を果たしてくれた。

 式根島の島おこしでは、キャンプをしながらスキンダイビングのインストラクターとして内地や島の子どもたちに海を教えたりもした。朝はテント場として利用させていただいている学校でギアの準備をし、海に潜り、隙間時間には他のグループの子供達に座学講習、夕方には食事の準備やミーティングをする。着替える暇も服を選ぶ余裕もない毎日の中で、濡れても乾いても、そのまま次の行動に移れる一枚があることのありがたさは、実際に穿いてみないとわからない部分だと思う。

通常のバギーズ・ショーツは、ライトに比べると乾きはやや遅い。それでも生地が分厚い分、島の町に出て着ていても水着らしさが出過ぎず、違和感なく過ごせるのがありがたかった。

インナーにメッシュのライナーが付いているので、そのまま水着として海に入れるのもいい。海から上がって晴天のもとを歩けばすぐに乾燥する、そのまま港の食堂に入っても浮かない。ちなみにメンズモデルは、このインナーライナーを外して穿いている人も多い。街着として使うときや、自分の水着を別に持っているときは、外した方がすっきり穿けるという声をよく聞く。

 ウィメンズモデルも、メンズと同じく水陸両用として作られている。メッシュのインナーライナーが付いていないのは、女性の場合はビキニやワンピースといった水着を着用し、その上からバギーズを重ねて穿くことを想定しているためだ。普段履きの際には下着の上から穿く。カッティングもメンズとは異なり、よりバギーな形で女性らしいシルエットに仕上げられている。同じシリーズでも、男女で少し作りが違うのはおもしろいところだ。

「ウィメンズ・バギーズ・ショーツ」

バギーズシリーズ、今と昔

 僕が長年愛用してきたバギーズ・ライトは、今は販売が終了している。少し寂しい気持ちもあるけれど、今は メンズ・バギーズ・ショーツ 5インチと メンズ・バギーズ・ロング 7インチを穿き継いでいる。丈の違いはあっても、生地の性格や、山でも海でも同じ一枚で行き来できるという役割は変わらない。

 現在のラインナップを整理すると、膝上の短め丈が特徴の「メンズ・バギーズ・ショーツ 5インチ(股下約13cm)」

5インチより股下が約5cm長い「メンズ・バギーズ・ロング 7インチ(股下約18cm)」がある。

丈が長い分、ロングの方が街に出ても違和感が少ない印象だ。

ほかに、股上や足回りを調整しライナーなしが基本の「ウィメンズ・バギーズ・ショーツ(5インチ)」

▶ パタゴニア公式 | ウィメンズ・バギーズ・ショーツ 5インチ

そして親子でおそろいを楽しめる「キッズ/ベビー・バギーズ・ショーツ」がある。

5インチ・7インチとも、耐久撥水(DWR)加工と速乾性、内側のメッシュライナーを備えた水陸両用設計は今も健在だ。

 2026年秋冬シーズンには、新しいカラーや柄がまた加わる予定だ。もともと単色に限らず、柄物も以前から継続的に展開されてきたシリーズで、シーズンごとに新しいカラーや柄が加わっていく、その積み重ねが今のラインナップになっている。

▶ パタゴニア公式 | メンズ・バギーズ

写真提供:patagonia 

 パタゴニアらしい水辺や自然のモチーフを取り入れた柄は、5インチだけでなく7インチのロング丈にも展開されていて、街穿きや島旅のスタイルの選択肢が広がっている。

遊びの延長に、守るという選択がある

 バギーズ・ショーツの生地は2019年にリサイクル素材へと切り替わり、2022年からは南米の漁業コミュニティなどから回収した使用済みの漁網を原料とする「ネットプラス・ポストコンシューマーリサイクル・ナイロン」を100%使用するようになった。海に放置されれば漂流ごみとなり、生き物を傷つけかねない漁網が、洗浄され、細かく砕かれて糸に戻り、また海に入るためのショーツになる。そう考えると、この一枚を穿いて海に入ること自体が、小さな循環の一部になっているような気がしてくる。

 こうした廃棄漁網の再生は、日本国内でも徐々に広がりを見せている。漁業の現場から出る使用済みの網を回収し、素材として再生する取り組みが各地で進んでいて、パタゴニア製品全体に占めるネットプラス素材の比率も年々広がっているという。日本の漁網は種類や構造が複雑で、素材ごとに分別する手間がかかるとも言われるが、それでも国内での回収の動きが進んでいることを思うと、将来的には日本の浜で集められた廃棄漁網が、このショーツの原料として使われる日が来るかもしれない。

 振り返ってみると、僕がネパール遠征に持って行ったバギーズ・ライトは、ネットプラスが採用される前の一枚だった。当時はまだ、生地がどこから来ているかを意識したことはなかった。今、僕が手にしているメンズ・ メンズ・バギーズ・ショーツ 5インチや メンズ・バギーズ・ロング 7インチは、2022年以降のネットプラス素材に切り替わったものだ。

同じシリーズを穿き継いできただけなのに、いつの間にか手の中の一枚は、廃棄されるはずだった漁網から生まれたものに変わっていた。道具の中身が知らないうちに更新されていく、その変化に自分自身が追いついていなかったことに、あらためて気づかされる。

 放置されれば海を漂い続け、魚や海鳥、サンゴなどを傷つけかねない廃漁網が、糸に戻り一枚の生地になっていく。ネットプラス素材を使ったショーツが増えていくということは、その分だけ海に残るはずだった廃漁網が減っていくということでもある。この一枚を選ぶことが、遠く離れた漁業の現場を通じて、海の自然環境を守ることにささやかにつながっているのだと思う。

 パタゴニアというブランドは、そもそもクライミング道具をつくるところから始まっている。創業メンバーたちは、道具をつくる合間に波が良ければ海に出ていたという。一つの道具を多用途に使うという発想は、創業当時からブランドの根っこにあるものだ。バギーズ・ショーツが山でも海でも同じように使えるのは、その姿勢がそのまま形になった結果なのだと思う。

 思えば、拾った海パンで無人島に渡っていた学生時代には、道具の素材や作られ方まで考える余裕はなかった。あの頃から時を経て、社会人になってバギーズを手にし、ネパールの山小屋で休息着として穿き、沢を登り、島々で山と海と町を行き来する一枚として穿き続けてきた。その間に、道具自体も少しずつ姿を変えてきた。今こうして、その一枚が廃漁網から生まれていると知ると、自分が選んできた道具が、知らないうちに海を守る側に回っていたのだと気づかされる。

 日本には美しい海があり、その海に注ぐ流域がある。山を歩く人も、沢を登る人も、海に潜る人も、街を歩く人も、それぞれのフィールドで遊びながら、廃棄される漁網から生まれたこの一枚を選ぶことは、そのフィールドを守ることにささやかながら貢献しているのだと思う。

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