山と海を繋げる──パタゴニアが照らす、水陸シームレスな冒険

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境界線のない遊び

2026年1月、東京・表参道。パタゴニア日本支社が開催した春夏製品のプレスプレビュー会場を訪れた。

「山と海は、もともとひとつだった」

会場に並ぶ製品群を見ていると、それがただのアウトドアギアではなく、分断された世界を再び繋ぎ直すための「道具」であるように伝わってくる。キャプリーンやバギーショーツが山でも海でも使える。フライフィッシング用のブーツがリーフでも歩ける。マウンテンバイク用のパンツはカヤックでも快適そうだ。

これは単なる「多用途性」の話ではない。パタゴニアは、私たちが分断してしまった「山から海へと続く生命の物語」を、再び一本の線で描き直そうとしている。


Water People──境界を超える者たち

ルーツへの回帰

「パタゴニアが海と山で使えるギアを作るのは、会社のルーツがクライミングとサーフにあるからです」

スポーツカテゴリーマーケティング担当の内野さんの言葉は明快だった。

「創業者のイヴォン・シュイナード氏がクライミング道具を作る傍ら、波が良ければサーフィンをする。そこに境界線はないんです。一つのもので多用途に使える『バーサティリティ(多用途性)』は、我々の製品フィロソフィー(モノづくりの思想)の一つなんです」

2026年春夏、パタゴニアのオーシャンカテゴリーから登場する「Water Peopleコレクション」は、まさにその哲学の結晶だ。

コレクションの象徴となるのは、1968年から1969年にかけて撮影された映画「Mountain of Storms(山の嵐)」。イヴォン・シュイナード氏と仲間たちがカリフォルニアから南米パタゴニアまで、サーフィンをしながら旅をし、最後にフィッツロイ山の新ルートを開拓したという伝説的な冒険の記録だ。

「誰も乗ったことのない波を求めて、危険な目に遭いながら南米に向かい、そしてクライミングをする。この旅が、パタゴニアというブランド名の由来になっているんです」

Water Peopleコレクションに使われているロゴは、イヴォン氏が最初に作った「シュイナード・イクイプメント」のダイヤモンドの中に「C」のマークが入ったデザインからインスパイアされている。過去へのオマージュであり、同時に未来への宣言でもある。

「サーフ」から「オーシャン」へ

2024年10月、パタゴニアは大きな決断をした。それまで「サーフ東京」「サーフ千葉」と呼んでいた店舗から「サーフ」という言葉を取り払い、「千葉・一宮ストア」「東京・原宿ストア」に改称したのだ。

「これは、サーフィンだけに限定しないという意思表示です」とオーシャンカテゴリー担当の牧野さんは説明する。

「SUP、アウトリガーカヌー、フォイル、スキンダイビング、スピアフィッシング──。海で遊ぶすべての人を『ウォーターピープル』として捉え、巻き込んでいく。それがオーシャンカテゴリーの新しい定義です」

パタゴニアのコンセプトは「ヒューマンパワード(人力)」。だからこそ、自分の身体一つで海に潜るスキンダイビングやスピアフィッシングとの親和性は非常に高そうだ。

海で遊ぶ人も、山で遊ぶ人も、内なる情熱に従って遊んでいる。その熱量に境界線はないようだ。

そして今期、その「オーシャン」という新しい定義のもとで、パタゴニアは具体的な一歩を踏み出した。店舗の名称変更だけでなく、製品ラインナップ自体が再構築され、山と海を隔てない「Water People」としての視点が、ギアの設計にも反映されるようになっている。スキンダイビングに対応する製品の拡張も視野に入り、オーシャンカテゴリーの射程はさらに広がっている。


道具が語る物語

メンズ・リバー・ランブラー・ハイブリッド・サン・フーディ島旅の相棒

プレビュー会場で最初に手に取ったのが、この「メンズ・リバー・ランブラー・ハイブリッド・サン・フーディ」だった。

フライフィッシングカテゴリーから出ている製品だが、一目見て「これは島旅に最高だ」と直感した。そしてその直感は、スタッフの説明で確信に変わった。

最大の特徴は、フード部分が取り外し可能なこと。フードは「キャプリーン・クール・サン」という紫外線をしっかり防ぐ素材(UPF 40+)でできている。海ではフードを装着し、町に降りるときは外せば普通のシャツスタイルになる。

襟を立てれば首の日焼けも防げる。胸ポケットは大きく、青いループはフォーセップ(ハサミ)を取り付けれるループを装備。サングラスやメガネ拭き用のパッチも裾の前側に縫い付けてある、アクセスが容易で使いやすそうだ。スナップボタンやジッパーは海水で腐食しにくい非鉄素材を使用している。

「釣り人は一日中、暑いところにいますから。でもこれ、島では特に重宝すると思いますよ」とスタッフ。

まさに。島は町との距離が近い。スキンダイビングから上がってすぐに地元の商店や食堂に行くこともある。濡れた水着姿ではなく、こういうシャツスタイルなら地元の方に変なインパクトを与えずに済む。

素材はリサイクル・ポリエステル100%。ストレッチが効いていて、摩耗にも強い。軽く、すぐ乾く。山でも最近はシャツスタイルが人気だから、沢登りから街歩きまで、文字通り水陸シームレスに使える一着だ。

リバー・ソルト・ウェーディング・ブーツ II──淡水と海水を跨ぐ

「リバー・ソルト」という名前が、すべてを物語っている。

川(リバー)と海(ソルト)。この二つのフィールドを一足で対応させるという、シンプルだが革新的なコンセプト。同じく海水で腐食しないように金属パーツは使用していない。

ビブラム・メガグリップのソールを採用し、濡れた岩場でも滑りにくい。リーフでも、渓流の岩でも、しっかりとしたグリップ力を発揮する。アッパーはコーデュラ・ナイロン・メッシュで、速乾性と耐久性を両立。

「耐久性やプロテクションを重視した、アプローチシューズに近い作りなんです」とスタッフの説明。

まさに、沢歩きから磯遊びまで、一足で対応できる。

「ボーンフィッシュ(海)を追いかけるのにも、トラウト(川)を狙うのにも適している」という製品説明は、Ridge to Reefの思想そのものだ。淡水と海水、その境界を自由に行き来する。

足元から、水陸の冒険が始まる。

キャプリーン・クール──50年の進化

「キャプリーンは1980年にパタゴニアから登場した、アウトドアスポーツを楽しむためのベースレイヤーです」

ほぼ50年。この長い歴史を持つ定番シリーズが、2026年春夏で大きく進化する。

特に注目すべきはキャプリーン・クール「デイリー」と「トレイル」に加え「ウルトラ」と「サン」二つの新製品だ。だが、既存モデルも静かに、大幅に進化している。

キャプリーン・クール・ウルトラは、シリーズ最軽量(フーディでわずか約108g)、シリーズ最高の速乾性を誇る。これは「リッジフロー」の後継モデルで、100%リサイクル・ポリエステルのハニカム構造メッシュ素材を採用。ハニカムの凹凸が空気の流れを促進し、熱と湿気を瞬時に発散させる。トレイルランニングやカヤックなど、ストップ&ゴーを繰り返すスポーツに最適だ。

セットインスリーブ構造で動きやすく、脇下にガセットを入れ擦れを抑える。タンク、Tシャツ、フーディの3展開で、フーディのみサムホールを装備し袖がずり上がりにくくなっている。フードも立体パネル構造で動いてもズレにくく、ボタン留めでフィット感を調整できる。

そしてキャプリーン・クール・サン これが本当に画期的だった。

通常、UVカット機能は後加工で薬剤を塗布する。だから洗濯を繰り返すと効果が落ちる。しかしこの製品は、シングルニット構造そのものが日焼け防止の仕組みを持っている。100%リサイクル・ポリエステルの繊維に酸化チタン(日焼け止めの主成分)を練り込んでいるのだ。

「洗っても効果が落ちないんです。しかもヨーロッパの厳しい基準に合わせて作られているUPF 40+の性能が半永久的に続きます」

しかも生地の隙間を残し適度な抜け感を残しつつ、UPF 40+を達成しているという。裏面も立体的な構造にされ、生地が肌に張り付きにくく通気性を高めている。

袖口にサムホールを装備し、手の甲までカバーできる。スキンダイビングやSUP、長時間の山歩きなど、紫外線が強い環境で本領を発揮する。

フーディのフードはキャップの上からも被れるゆとりのある設計で、ボタン留めでフィット感を確保。枝の掛かりや風でフードが外れるのを防ぐ。ポケットのジッパーも腐食対策で金属を使用していない。耐腐食ジッパーの使用は、海や水辺での使用を想定しているからこそだ。

キャプリーン・クール・デイリーは万能型だ。

シルクのような触れ感の生地に、吸汗を促すウィッキング加工とハイキュ・ミントによる防臭加工を施している。縫製やシームを最小限に抑え擦れを軽減した設計で、スリーブレス、タンク、半袖、長袖、フーディと幅広く展開されている。普段着としても、ウォータースポーツ用としても、非常に相性がいい。全方位型のテックTシャツとして、街でも山でも海でも使える。私も島旅には必ず持っていき、海や山を行き来していた。

キャプリーン・クール・トレイルはコットンライクな肌触りで、テンセル(木質パルプ)を組み合わせた最も通気性の良いモデルだ。オープンニットの生地が肌から湿気を引き離し、長時間の気化冷却を実現している。今季はラグランスリーブからセットインスリーブに変更され、かつてある耐久性や透け感の課題も改良されたという。グラフィック入りモデルも展開されている。

用途に応じて選べる幅の広さ。それでいて、すべてリサイクル素材を使用している

バギーズ・ショーツ──海を救う布

バギーズ・ショーツ

山でも海でも活躍するパタゴニアの超定番ショーツ。これが実は、漁網をリサイクルした「ネットプラス」素材を使っている。

海に漂う漁網や、使われなくなった漁網を回収してリサイクル。それを繊維にして、ショーツを作る。海のゴミが、海で使うギアになる。

履くたびに、海のことを考える。洗うたびに、リサイクルのことを思う。

道具が、環境問題を「自分ごと」にしてくれる。これこそが、パタゴニアの製品哲学だと思う。

さらに、この「海を想う心」をフィールドでの安心感に変えてくれる相棒たちもいる。

水中での抵抗を極限まで抑えた高ストレッチ素材の「R0 Hoody」は、ボードショーツと連結できるループを備え、激しい動きでもめくれ上がることがない。ボトムには、水中から岩場まで脚を保護し、UPF40+で日差しを遮る「トロピック・コンフォート・サン・タイツ」を合わせる。

廃棄される運命だった素材から生まれたショーツを穿き、機能に裏打ちされたギアを纏う。その時、私たちはただの「遊び手」から、流域の一員へと変わっていく。

R0 Hoody 

Tropic Comfort Sun Tights

隠れた名品──MTBカテゴリーの可能性

「マウンテンバイクのカテゴリーは、白馬、大阪、神田など数店舗でしか展開していないので、知らない人も多い。でもマウンテンバイク製品は多用途な使い方がし易い製品が揃っています。」

内野さんのこの言葉に、私は身を乗り出した。

ダート・クラフト・パンツ──水辺と陸を繋ぐ万能パンツ

「これ、マウンテンバイク用なんですけど、実はハイクやクライミング、カヤックとも親和性が高いです」

抜群のストレッチ性と立体裁断。膝の裏や股周りにはレーザー加工で通気孔が施され、蒸れを逃がしてくれる。パドリング中だけでなく、丘では虫や薮からも脚を守りつつ、ショートパンツを履いているかのような風抜けの良さが期待できそうだ。

シルエットはタイツとパンツの間くらいでスッキリ。ウエスト周りもすっきりしていて、ハーネスなどを着けても干渉しない。

素材は「オーシャンサイクル認証」のリサイクル・ポリエステル82%。海岸線から50マイル以内で回収された、海に流れ込む直前のプラスチックを原料にしている。

つまり、海洋プラスチック問題に直接貢献する素材で作られたパンツで、山も海辺でもこれを履いて遊べる。

トレイル・クラフト・ベスト──107gの自由

わずか107g。前面は防風シェル、背中は通気性のいいストレッチ素材。

「ザックを背負っても蒸れないんです。カヤックなんかでも使えますよ」

パッカブルになり、ハンドポケットに収納可能。島旅で朝晩の冷え込みに対応したり、稜線の風を凱いだり、海からの風を防いだり。

パドリングの邪魔にならないベストタイプである。まさにミニマリストのための、完璧なレイヤーである。


Ridge to Reef──山から海への再生

流域という単位で考える

「海にどんなにサンゴを植え付けても、藻を植え付けても、枯れていってしまうんです」

プレビュー会場で、パタゴニア日本支社のRidge to Reefプロジェクト担当・柳谷さんは静かに語り始めた。

「海の回復力(レジリエンス)を高めるためには、海だけを見ていてもダメ。山と海が健全に繋がっている状態を取り戻さないと、海の基礎体力は戻らないんです」

Ridge to Reef──山から海へ。

このプロジェクトは、山と海の健全な繋がりを再生し、栄養塩や水、木が自然に巡る環境を取り戻すことを目指している。パタゴニアが売上の1%を環境保全活動に還元する「1% for the Planet」を、より戦略的に、より大きなインパクトを生み出す形に進化させたものだ。

「流域全体を一つの単位として捉える。これが、このプロジェクトの核心です」

いくつかのパイロットサイト

現在、国内でいくつかの地域でパイロットプロジェクトが進行している。

例えば

静岡県富士市では、由比漁協組合 貝業組合への支援を通じ、山で切った杉の木を海に持ち込んで魚礁にする取り組みが始まっている。興味深いのは、この活動の中心人物だ。もともとは林業を営む家に生まれ、自身はウィンドサーフィンで世界大会に出場し、現在は富士川でラフティングガイドをしながら漁協の組合員でもあるという、文字通り「一人でRidge to Reefを体現している」ような人物だという。

「藻場(もば)がなくなっちゃっていることを、漁師さんたちは本当に気にされています。でも、山を豊かにすることで海が変わるという実感を持てるかどうか。そこに橋を架けるのが、このプロジェクトの役割なんです」

鹿児島県与論島では、島のコンパクトさが逆に強みになっている。鹿児島県最南端のこの小さな島では、サンゴ研究者出身の地元出身者が中心となり、町と連携しながら陸からの赤土流出などの負荷をコントロールする取り組みを進めている。

本土では、かつて一般的だった半農半漁という経営形態が少なくなり、農業・漁業それぞれの専業化が進んだ。その結果、お互いの環境に対する意識が分断され、関心が希薄になりつつある。しかし、海と山が物理的に近い小さな島という特殊な環境は、必然的に住民がお互いの環境に目を向けやすくなるのだ。

「島が小さいからこそ、山と海のつながりが実感しやすい。ちょっとでも赤土が流れると、すぐに住民から報告が来るんです」と柳谷さんは微笑む。

そして大阪府・淀川流域。こちらは対照的にスケールの大きい都市型プロジェクトだ。

「田舎や過疎地だけをモデル事業にするのは偏る。都市域のライフスタイル、都市の作り方に目を向けないとRidge to Reefは完成しない」

大阪湾に注ぐ淀川流域で、都市域を生活空間としている多くの人々に取り組みを可視化し繋げていく。

このプロジェクトは他にも数か所で展開されている。私の住まいに近い三浦半島でも、その土地の「流域」に合わせた活動をしているようだ。

日本だからこそ、できること

「日本って、実はものすごいチャンスなんですよ」

柳谷さんの言葉に力がこもる。

「戦後80年の急激な都市化で、確かに日本の自然は大きく破壊されました。でもそれは、ヨーロッパが石畳の街を作るのに何千年もかけたのとは違う。つまり、まだ『揺り戻し』ができる可能性があるんです」

人口減少、空き家の増加、耕作放棄地の拡大、森林管理の困難──。一見ネガティブに見えるこれらの現象も、自然に根ざした解決策(ネイチャー・ベースド・ソリューション)で捉え直せば、国土利用を再設計する好機になる。

「しかも日本は島国。大陸に比べれば、本州でさえ海と山の距離は圧倒的に近い。この地理的特性は、Ridge to Reefのコンセプトに完璧にマッチしています。日本で成功できなかったら、逆に難しい。日本で成功すれば、世界の素晴らしい事例になります」

このプロジェクトは6年計画。最終的には、山と海のつながりを意識した国土デザインが当たり前になる未来を目指している。

「理想的には、最後は私たちの手を離れていくものだと思っています。本当に成功していたら、もうパブリックなものになっているはずですから」


おわりに

 取材を終えても、スタッフさんたちが語った製品のディテールや「Ridge to Reef」の思想が、心地よい熱量を持って残っている。一つの道具で、山も海も行ける。その自由は、荷物を軽くするだけでなく、私たちの自然に対する視線をも自由にしてくれるはずだ。

今、目の前にある一着のキャプリーンやバギーズは、彼らが2年前に描いた「未来への意志」そのものだ。漁網をリサイクルし、高温多湿な日本の夏を想定し、山でも海でも使い倒せる機能を詰め込む。

その執念とも言えるモノづくりは、すべて「地球というボス」のもとで、私たちが長く遊び続けるために捧げられている。

机上での取材はこれで終わり。次は、潮の香りと土の匂いが混じり合う現場が私を待っている。山と海を往復する旅の記録。ここでいくつか紹介したパタゴニア製品を実際のフィールドで使用し、レポートを後日お届けしたい。


取材協力:パタゴニア日本支社 取材日:2026年1月22日・23日 会場:BENE-(東京都港区南青山)


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